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「へき地医療×IoT」で地域医療体制を構築し、医療と安心を届ける

お役立ち記事

慢性的な医師不足と高齢化の問題を抱える山口県で、へき地医療に積極的に取り組んでいる 山口県立総合医療センターへき地医療支援センターのセンター長・原田 昌範氏。電子カルテやオンライン診療などIoT技術を活用しながら進める、へき地医療の現状に迫ります。

山口県立総合医療センター
へき地医療支援センター
センター長 原田 昌範 氏

県土の60%がいわゆる「へき地」の山口県

へき地医療支援センターの機能と役割について教えてください。

2011年、「へき地医療支援部」は、当院の独法化後も山口県の出先機能として設置され(前身は「地域医療部」)、当初は私を含めた2名でスタートしました。2013年から他科と兼務することで「へき地医療支援センター」として徐々に拡大し、現在13名体制で院内外の医療を支えています。私たちは、「へき地、離島への医療体制の確保」「次世代の育成」「地域医療連携」「ICTを使った医療の質の向上」「へき地の取り組みの情報共有」に注力し活動を行っています。

各医療圏には「へき地医療拠点病院」がありますが、自院の仕事で手一杯になっているのが実状です。基本的には各地のへき地医療拠点病院に代診や巡回をお願いしながら、まかないきれない場合は、へき地医療支援センターが全県的にセーフティネットとなってフォローしています。

県内のへき地医療は現在どのような状況なのでしょう。

県土の60%が「へき地(※)」に該当する山口県の場合、過疎三法(過疎地域自立促進支援特別措置法、離島振興法、山村振興法)にもとづいて医療における「へき地」を定義していますが、本州最多・21の有人離島を含む山口県のへき地の人口は、県民の14%に当たる約18万人にものぼります。

※医療の場合、都道府県ごとに「第7次保健医療計画」があり、5事業のひとつ「へき地」の対象地域の定義は都道府県よって異なる。
地図は、山口県立総合医療センターへき地支援部より提供の資料より作成

県内のへき地医療の課題とは?

最も大きな課題は、医師不足です。山口県は8つの医療圏に分かれており、へき地には公的病院が16箇所、36の診療所がありますが、常勤の医師が少なく、自治医科大学の卒業生を派遣し、各診療所を巡回している状況です。

人口 10 万対医師数は 252.9 人(平成30年)で、全国平均の244.1人を上回っているのは、宇部医療圏と下関医療圏のみです。最も少ない長門医療圏では、175.8(平成30年)となっています。さらに、山口県では、若手の医師不足も深刻です。都会の学生が医師免許だけを取りに来て、都会に帰っていく。その結果、医師の平均年齢が全国で最高齢の53歳となっています。今はまだ私を含めた医師が現役で奮闘できますが、10年後、20年後の山口県を支えることを考えるとまだまだ課題は山積みです。

若い医師が残らない原因とは?

2004年に始まった臨床研修制度、それから2018年には新専門医制度が医師の偏在化を引き起こし、若い医師が地方の医局に残らなくなったきっかけのひとつです。研修を指導する医師(指導医)や設備が充実している都市圏の大学病院等に集中し、研修終了後もそのまま都心部に定着することが予測され、地域医療への支障を懸念しています。

高齢化率が約30%、
地域のニーズにマッチした総合診療医の育成が必要

山口県の高齢化について教えてください。

山口県の高齢化率は約30%と、全国より約10年進んでいるといわれています。
20年後には人口が今より約30万人減少し、さらに高齢化が進むと予測されていますが、特に、へき地の多くの場所では、高齢化率が50%をこえています。
高齢者が抱える疾患は、一つではなく複数の疾患を抱えていることも多いが、へき地に各専門医をそろえることは現実的に難しい。だからこそ、幅広くさまざまなことに対応できる総合診療医を育成していこうとしています。標準的な知識・技術を持ち、画一的ではなくそれぞれの地域のニーズにマッチした総合診療医の育成が必要だと考えています。

医師と医師をつなぐ電子カルテ

冒頭、「ICTを使った医療の質の向上」に注力をされていると聞きましたが、『きりんカルテ』導入のきっかけを教えてください。

原田 実は『きりんカルテ』導入以前は、経済産業省のプロジェクトから開発されたシステムを使用していました。2015年、山口県でへき地医療にクラウド型電子カルテを導入する話が持ち上がった際に採用したもので、イニシャルコストやランニングコストがかからず自治体が「無料」で利用できる点が最大の魅力でした。

紙カルテから電子カルテへの転換は画期的でしたね。医師と医師のコミュニケーションが円滑になった一方で、10年前に開発されたプロダクト機能の限界に課題を感じていました。そんな矢先に当時『きりんカルテ』のアドバイザー役だったTXP Medical 株式会社の担当者から紹介されたのが『きりんカルテ』です。それまで使用していたシステムと同様に無料で導入・運用でき、「本当に無料でいいのか」と思うほどコンテンツが充実していたことから、2019年に『きりんカルテ』へ移行。現在は、岩国市立本郷診療所、柳井市立平郡診療所、周南市国民健康保険鹿野診療所、柳井市立平郡西診療所、岩国市立柱島診療所、とくぢ診療所、山口市串診療所と徐々に県下のへき地で広がりを見せています。

クラウド型電子カルテの導入で、
へき地医療にもたらされるメリットをお聞かせください。

原田 クラウド型の電子カルテの最大の強みは、医師と医師のネットワークを構築できることです。へき地の診療所の多くは、紙カルテで運用されており、その診療所へ行かないと患者の診療情報を見ることができません。また、山口県の場合、へき地医療を支援している医師の多くが自治医科大学を卒業したばかりの若手です。経験が少ないため、診療を分析して見える化したり客観的に評価したりすることが難しい状況にありました。

クラウド型の電子カルテであれば、医師がどこにいても患者のカルテを確認できます。また、そのデータをもとに医師と医師のつながりが強固になることで、山口県全体のへき地医療の質の標準化を目指しています。

オンライン診療にも『きりんカルテ』を活用

診療所での運用状況について教えてください。

西村 岩国市立本郷診療所では、一般診療に加えて診療時間外のオンライン診療にも『きりんカルテ』を使用しています。夜間などの診療時間外に患者さんからの連絡が入ると、自動で私の携帯電話へ転送されるようになっていますので、まずはその場で状況を伺います。必要だと判断すれば、診療所から離れた自宅や他施設などからオンライン診療を開始しますが、その際にクラウド型電子カルテが必要となります。電話相談は平均して月に1、2回程度ですが、どこで連絡を受けても対応できるように、『きりんカルテ』をインストールしたパソコンは常に持ち歩いています。

岩国市立本郷診療所 所長
岩国市立美和病院 内科部長
西村 謙祐 氏

陣内 柳井市立平郡診療所のある平郡島は、柳井港から南方20kmの瀬戸内海上にある離島です。私は週に2回だけ巡回診療で港から診療所に向かうのですが、雨天や高波で船が出港できないことがあります。また、高齢化率8割以上の島で週に2回だけ開く診療所となると、その2日間は予約であふれ、十分な医療を受けられない患者さんが増えているという課題を抱えています。

オンライン診療の体制がまだ整えられていないので、『きりんカルテ』の機能を十分に発揮できていないというのが正直なところです。しかし今後、先に述べたような場面に『きりんカルテ』を使って西村先生のように運用できれば、平郡島でも医療の拡充が実現できるでしょう。今はここを目標に体制構築を図っています。

原田 私は、周南市国民健康保険鹿野診療所で『きりんカルテ』を使用しています。この診療所は、2016年に医師が退職してから現在まで常勤の医師がいません。当院と周南市立新南陽市民病院の2つの医療機関から、計10名の医師が巡回で訪問して診療所を支えています。患者さんの診療情報の共有に欠かせないのが『きりんカルテ』です。当院にいながらのカルテ確認や診療所にいる若手医師・看護師からの相談対応はもちろん、オンライン診療にも活用しています。

へき地の医療レベルを標準化する

「使い勝手がいい」と感じるシーンを教えてください。

西村 オンライン診療では、やはり自宅からでも患者さんの情報にアクセスできる点が大変便利です。看護師や事務員とも情報共有が瞬時にできるので、業務効率がかなり改善されました。

陣内 チャットでの運用サポート機能はかなり便利ですね。特に導入当初は大変お世話になりました。返答の速さや手厚いフォローにも感謝しています。

周防大島町立東和病院
柳井市立平郡診療所
陣内 聡太郎 氏

原田 周南市国民健康保険鹿野診療所は『きりんカルテ』を導入するまで紙カルテを使っていたので、10名の医師がそれぞれの方法でカルテを書いていました。へき地の診療所を多くの医師で守る場合、診療情報をいかに正確に共有するかはとても重要です。『きりんカルテ』はSOAP(※1)でカルテ記入のフォーマットがきちんとしていますし、みんなが記入した文字が正確に読める。実は最も大事なところで、書き間違いによる医療事故を未然に防ぐことにつながっています。

(※1)カルテ作成の際に必要な情報整理の4分類を指す言葉。Subjective= 主観的情報、Objective=客観的情報、Assessment=評価、Plan=計画(治療)

今後の展望についてお聞かせください。

原田 先日、岩国市立本郷診療所の医師が急に発熱して、診療ができなくなったことを想定した「緊急オンライン代診」の実証実験を実施しました。診療所の電子カルテ情報を当院で確認し、現地にいる看護師と連絡をつなぎながら緊急オンライン代診が可能なことを確認できました。こうした対応は自然災害等の理由でへき地の診療所を訪れることが困難な状況にも活用できるでしょう。『きりんカルテ』があるからこそ、実現できるへき地医療は確実に広がりを見せています。へき地医療をさらに高度化させ、発展させるためには、へき地のネットワーク環境の整備が急務です。今後も患者さんにより安心した医療を届けられるよう尽力していきます。

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